その日の一週間ほど前
春休みを利用して息子が私と相方両方の実家に一人で帰省していました
そして3月某日13時頃帰宅
帰ったらすぐに耳鼻科に行く約束を「夕方に行くから」と変更して
荷物をおいてすぐに友達の家に遊びに行ってしまいました
その帰宅から家を出るまでのほんの数分間の間に交わした会話の中に
「おじいちゃんちょっと変やったで うつ病みたい」
(私が数年前からうつを煩っており、その様子を見ているのでよくわかったのでしょう)
「死ぬときは切腹するとかまたゆーてたわ」
(父の口癖 半分本気半分冗談だと思ってました)
という話が
そういえば2月に帰った直後、ちょっと様子がおかしいと思ったんだよなあ
でも次の日は普通だったし 大丈夫かなあ
なんて事を考えてました
夕方4時頃実家より電話
「どうしよう・・・・パパが・・・パパが・・・」
泣きながら母が伝えた言葉に思わず声をあげて叫んでいました
「(仕事から)帰ってきたら、パパが階段の所で ネクタイで首吊って・・・」
目の前が本当に真っ白になり
体中がカッと熱くなるのがわかりました
胃の辺りがきゅうっと痛くなり
「ネクタイ」と「首吊って」という言葉が頭の中を駆け回り
その響きのなんとも言えないドロリとした感触が恐ろしくて哀しくて・・・
しかし半分の私は妙に冷静に
「私がパニクってもしゃーない お母さんをなんとかしないと」
とか考えていたと思うのですが
今振り返ってみると何を話したのかあまり覚えていません
とりあえず警察と救急車が今から来るのでまた電話をするとの事
わかった と言って電話を切った後
私は部屋で一人何かをわぁわぁ叫びながら混乱したまま相方の携帯に
電話をかけました
しかし伝えようとしても言葉が出てきません
口にしてしまうと何かが壊れるような気がしていた様な気もします
「パパが パパが・・・」
どうしてもこの先が言えませんでした
混乱し泣きじゃくりながらただただパパがと繰り返す私を察して
「わかった すぐに帰るから」
「○○(息子)は?わかった 俺が電話かけるから」
そんなやりとりをして電話を切りました
母の連絡を待つとは言ったもののじっとなんてしていられるはずもなく
大急ぎで実家へ帰る為の用意をはじめ
しばらくして帰ってきた息子と相方と共に大慌てで実家に向かいました
母は父と二人暮らしなので今一人きりだと思うと心配でたまらなくなり
隣の県とはいえ私たちより全然近くに住んでいる相方の両親へ電話をして
母についていてくれる様に頼みました
途中母から電話があり
今そっちへ全員で向かっていること
相方の両親がすぐにそっちへ行ってくれるということ
とりあえず落ち着いてくれということ
を伝え
今警察と医者がきて一応いろいろ確認したところ事件性は無いと見て
遺体は病院へは運ばずそのまま家に安置して、後ほどもう一度警察と医者の
両方が来て手続きをすること
偶然通りかかった母の友達が傍についていてくれているということ
を聞きました
片道3時間以上かかる車中で
私はもはや泣くことも叫ぶこともなく
父がなぜこうなったかをただただ淡々と考えていました
夜8時過ぎ実家に到着
家には母のすぐ下の弟と、相方の両親が駆けつけてくれていました
父はいつも寝ていた和室の畳の上に敷かれた布団の上に寝かされていました
いつもの父の顔でした
すでに亡くなってから6時間以上も経っているであろうにも関わらず
まったく血色が良く
首を吊ってと聞いていたのでさぞ苦悶の表情であったり
見るに耐えない形相になっているのかと思いきや
今にも「おはよう」と起き上がって来るのではないかと思うほど
いつもの父の顔でした
すこし眉間に皺をよせ、口元は一文字にきりりと閉じられ
かけられた布団の胸元はもしかしたら上下してるのではないかと錯覚してしまいそうでした
目の前に静かに横たわる姿に「死」を全く感じることが出来ず
一目見たときに一度は湧き上がってきた悲しみは
遺体の前にいればいるほど現実感を失っていき
数分後には自分でも驚くほど冷静に父を静かに見つめていました
そうこうしているうちに警察と医者がやってきて
本格的な実況見分と検視が行われる事になりました
抵抗したあともなく部屋も綺麗で事件性は無く
まず自殺で間違いないだろうとの事
しかしひとつ問題があり、動機がわからない と
警察からするとはっきりとした動機を定義する必要があるらしいのです
遺書も何もなかった為普段の生活や周りの人間から聴取するしかないのですが
同居していた母は「わからないです」を繰り返すのみ
母曰く(後日ゆっくり話をするうちに出てきた話も含む)
昨年皮膚ガンを患うものの転移は無く足腰もしっかりとしており
その後の検査でも異常はなかった
が、根っからの病院嫌いで自ら医者にかかるということは無く
不調を訴えはするが頑なに病院へは行こうとしなかった
3年前に娘(私の事)の体調が思わしくなくなり忙しくなったのを機に
細々と続けていた仕事を辞める。
娘が結婚してから夫婦二人で旅行に行く機会が多かったが
ここ1、2年は誘ってもあまり乗り気ではなくなり
最近ではちょっと食事や買い物といった外出の誘いもおっくうがるようになっていた
ほぼ一日中リビングの座椅子に座って数独パズルをひたすら解く日々が続き
大好きだった歴史小説も図書館に行かなくなってから読むことも無くなる
夜は8時ごろに就寝
最近は「眠れない」と訴える事も多かったものの
毎週二回のゴミ出しと飼っている犬の朝夕の散歩は欠かさず行っていた
食事は毎日三食きちんと食べ
好物のコーヒーやちょっとした菓子類も好んでつまんでいた
「死ぬときは切腹して死ぬ」とは大昔からずっと言ってた口癖みたいなものだと
思っており真剣に考えたことは無かった
金銭面では自宅のローンが少しややこしい状態になっており
それを気に病んで「眠れない」などと口にしていた日もあった
朝は珍しく犬の散歩を母に頼み「風呂を沸かしておいてくれ」と言われた
発見時新しい肌着と下着を着ていたので風呂に入った模様
いつもはタンスの中に入れてあった父のお小遣い用財布が
机の上に出してあった
・・・・上に上げたことは今だから整理をつけて書き留める事ができたのであって
その当日にこれだけの事を頭でまとめて理解するのはそりゃ無理ってもんですね
お母さんごめんなさい
心の中で「なんでわかんないんだよ!」ってなってました
私は(どれだけの事を当日に聞いたかはもう覚えてませんが)
首を捻り続ける医者と警察と
まだまだ混乱の最中で懸命に父が何を考えていたかを考える母を見て
どうしても言いたくなりました
ここ数年一緒に住んではいなかったけど
生前深い話をするようなそんな親子じゃなかったけど
それでも
愛していた
愛されていた
血を分けた親子だからなのか
まったくの偶然に同じような性質を持っていたからなのか
もうはっきりいって全然わからないんですけど
言ったところで判ってもらえるとは思わないけど
そんなの本人に聞かなきゃわかんないじゃんと自分でも思うけど
それでもなぜかほぼ100%の確信をもって
言いたくなったんです
「父は自殺したんじゃなくて自害したんだと思うんです」


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by takeoff
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